アジアに想いを馳せる香り。エキゾチックな金木犀香水の存在
日本の秋を代表する花の一つに金木犀(キンモクセイ)があります。日本人なら誰もが知っている、甘い香りが特徴の金木犀ですが、実はフランスではほとんど手に入らない貴重な存在なんです。一般的な知名度は低いものの、フランス製の香水やアロマテラピーに欠かせない存在になっているようです。フランスでじわじわと人気が高まっている金木犀の香りを、西欧の観点からご紹介します!
2019年10月01日更新
記事の目次
[1]フランスで稀少な存在の金木犀
フランスの秋はとても短く、9月から10月の間のみと、日本に比べほんのわずかな期間です。暗く長い冬に備えて、皆がつかの間の秋晴れを慈しむ季節でもあります。
日本で暮らしていた頃、秋の風景には金木犀がいつも登場していました。神社や公園でよく見かける金木犀。風に乗って遠くからでも香る金木犀がとても好きだったのを思い出します。
私にとって、金木犀はまさに昔の記憶を蘇らせてくれる「プルースト効果」のあるものなんです。
(※「プルースト効果」…特定の香りを嗅ぐと、脳のある部分が刺激されてその香りを嗅いだときの体験や記憶が蘇ってくる現象です)
そんな身近な存在の金木犀。きっとフランスでも誰もが知っている花なんだろうな、と思っていました。
天気の良い日にはよくパリに散策に出かけるのですが、どこを探しても金木犀は見当たりません。
実はパリには金木犀が皆無なんです。
パリのお花屋さんに聞いたところ、どの生花店でも販売していないそうで、フランスの地方の植木屋さんで稀に取り扱いがあるようです。
東アジアのお花とのことで、非常に入手困難な植物なのです。
金木犀は中国が原産で、日本には江戸時代の頃に伝わったようですね。その香りが遠くまで届くことから「千里花」とも呼ばれているそうです。
フランス語で金木犀は、学名「Osmanthus Fragrans(オスマンタス・フラグラン)」、俗称は「Olivier Odorant(オリビエール・オドラン)」と呼びます。
「Olivier Odorant(オリビエール・オドラン)」は日本語に訳すと“香るオリーブの木”となります。“香るオリーブの木”と呼ばれていることに嬉しい気持ちになりました。
いかにも西洋的なネーミングですが、金木犀のフランス語名に“香る”という形容詞がついています。世界共通でその香りの特性が認識されているようですね。
[2]認知度は低くとも香水業界では注目されている金木犀
金木犀のオレンジとも金色とも見える可憐な花と、その芳しい香りはうっとりした気分にさせてくれます。
間違いなくフランス人も好む香りだと思うのですが、周囲のフランス人で金木犀を知っている人は何と一人もいませんでした!
ただその独特で強い金木犀の香りを西欧の調香師たちが見逃すはずがありません。パリの香水ブティックでは必ずと言って良いほど、金木犀の香料が入った香水を発見することができました。
その香りはオリエンタル・フローラルに分類され、著名なフレグランスメゾンでも金木犀の香りをメインとした香水を発表しています。
最近はフランスでもアロマテラピーが盛んで、リラックス効果の高いアロマオイルとして金木犀の香りが知られつつあります。
[3]パリのブティックで発見した金木犀の香水たち
BYREDO(バイレード)
『BYREDO(バイレード)』は、スウェーデン発のラグジュアリーフレグランスブランド。
創設者ベン・ゴーラム氏のアーティスティックな世界観をもとにした、誰とも被らない香りを発表し続ける『BYREDO(バイレード)』はフランスでも大注目のブランドです。
パリの高級ブティック街にその路面店があり、店内には香水のほかにもバッグやスニーカーなどが並んでいます。
デザイナーやミュージシャンなど、フランス人クリエイターを虜にしている『BYREDO(バイレード)』は飛ぶ鳥を落とす勢いの人気ぶりです。
店内の壁はストリートアートのようなデザインでとてもおしゃれ。こちらのブティックではなんと日本語を話すスタッフがいるんですよ♪
「オスマンサス(金木犀)の香水を探しています」と尋ねたところ、おすすめされたのが「INFLORESCENCE(インフロアーセンス)」です。
・INFLORESCENCE(インフロアーセンス)
トップノート…ピンクフリージア、ローズペタル(バラの花びら)
ミドルノート…スズラン、オスマンサス、マグノリア
ラストノート…フレッシュジャスミン
フローラルの香調で、金木犀がメインではありませんがミドルノートにうっすらと香ります。
ドスの効いたオリエンタルノートを得意とする『BYREDO(バイレード)』のなかでは予想外の香りでした。
この「INFLORESCENCE(インフロアーセンス)」のトップノートは透明感のあるイノセントな花々の香りから始まります。
まるで、春の朝方に野原を散歩しているようなイメージです。ですが時間の経過とともにどんどんオスマンサス(金木犀)やジャスミンの芳醇な香りが漂ってきます。
ラストノートのジャスミンの甘さは特に印象的で、咲き誇った花が力尽きる最後の瞬間まで表現しているようです。
よく手入れされた、ヨーロッパの美しい庭園の春夏秋冬を「INFLORESCENCE(インフロアーセンス)」の香水で感じ取れました。
よくあるフローラル系の香りでは物足りないという方、他の人と被りたくないというマーキング意識のある方には『BYREDO(バイレード)』の「INFLORESCENCE(インフロアーセンス)」が特におすすめです!
ROGER&GALLET(ロジェ・アンド・ガレ)
フランスで150年以上の歴史を持つフレグランスブランド『ROGER&GALLET(ロジェ・アンド・ガレ)』。オーデコロンから始まったブランドで、フローラル系の優しい香りが特徴です。
そのハイブランド性にも関わらず値段はお手ごろ。普段から香りのある生活を楽しむフランス人が、老若男女を問わず愛用するブランドです。
・FLEUR D’OSMANTHUS(フルール・ドスマンタス)
トップノート…オレンジ、マンダリンオレンジ
ミドルノート…オスマンサス、ネロリ、グレープフルーツ
ラストノート…サンダルウッド、トンカビーン、ムスク、ベンゾイン(安息香)
金木犀をメインにした香りが、『ROGER&GALLET(ロジェ・アンド・ガレ)』のフレグランスウォーター「FLEUR D’OSMANTHUS(フルール・ドスマンタス)」です(写真右端)。
フランスではとても珍しい、金木犀をメインにした香り。『ROGER&GALLET(ロジェ・アンド・ガレ)』のスタッフにも「レアな香りなんですよ!」と紹介されました。
金木犀がメインながらも甘さは抑えた香調で、全体的にフレッシュな印象です。
とても生き生きとしたフローラルノートで、「アジアンビューティー」・「幸せの香り」として『ROGER&GALLET(ロジェ・アンド・ガレ)』が金木犀にフィーチャーしたフレグランスです。
『ROGER&GALLET(ロジェ・アンド・ガレ)』のフレグランスウォーターはオーデコロンとしてはもちろん、ルームフレグランスとしても使用できる大容量が魅力です。
GUCCI(グッチ)
・BLOOM Nettare Di Fiori(ブルーム・ネッターレ・ディ・フィオーリ)
トップノート…ジンジャー、ローズ
ミドルノート…ジャスミン、ラングーンクリーパー、チューベローズ
ラストノート…パチョリ、ムスク、オスマンサス(金木犀)
金木犀の香りがラストノートに残る、『GUCCI(グッチ)』の「BLOOM Nettare Di Fiori(ブルーム・ネッターレ・ディ・フィオーリ)」。
フランス製の金木犀の香りには、爽やかなフローラル系のものが多いのですが、イタリア発のこちらの香りは重めでセンシュアルです。
咲き誇る花々のパワフルで豊かな香り。しかしながらフレッシュさはなく、神秘的な印象です。
ラストノートの金木犀がこんなにもセクシーな香りに仕上がっていることには驚きですが、金木犀自体が西欧では謎めいているからなのでしょうか。
その存在が謎めいていると、セクシーさを醸し出すときがあります。東アジア原産の金木犀に西洋のフィルターが通った、なんとも魅惑的なフレグランスです。
陶磁器を思わせるヴィンテージピンクのボトルにボタニカル柄を施したデザインも女性の心をくすぐります。
[4]金木犀のアロマオイルも密かな人気
日本には“禅(ぜん)”という言葉がありますよね。
実はこちらでも“ZEN”と呼び、そのままフランス語になっているんです。「静かな」「落ち着いた」という意味で、ヨガなどで瞑想をするときによく用いられます。
金木犀の香りはリラックス効果が高く、不安感や、イライラを鎮めてくれるそうです。
私も秋になると、どこからともなく漂ってくる金木犀の香りに居心地の良さを感じていたものです。
気持ちを落ち着かせてくれる香りとして、フランスでも浸透しつつあるようですね♪
[5]エキゾチックな金木犀
金木犀はフランス人のほとんどが知っている香りではありませんが、アロマテラピーの施術者や香水業界に携わる人にはよく知られています。
東アジアはフランス人にとって遠く神秘的な場所です。金木犀の香料はとても貴重な存在なので、高潔な印象の香水によく用いられていることが分かりました。
この芳しい香りに囲まれている日本の秋は情緒深いものがあります。
みなさんも素敵な香りと共に思い思いの秋を過ごしてくださいね♪